2014/03/29

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第一話は私の専門外の領域なのでふざけつつ楽しく書いたんですが、自分の専門に近いところでもふざけてみたくなったので書いた。

第二話 男の器を見抜くコンピテンシーモデル



登場人物

今 佐瑠子(こんさるこ)大手コンサルファーム、アッカンベー・アンド・カンパニー日本支社に勤めるキャリアウーマン。28歳。目つきが鋭いので男が寄り付かないが、実はピュア。彼氏なし。
由流 布和子(ゆるふわこ)佐瑠子の大学の後輩。神保町のまったりした出版社、よっこら出版で編集と広告営業をやっているOL。25歳。腹黒。


布和子 佐瑠子、最近少し付き合った男のLINEがひどいのよ。ちょっと見てくれる?
佐瑠子 (うわあ…この感じ…)

布和子 うわあ…でしょ。
佐瑠子 で、あんたはこのあと何て返すの。
布和子 ブロックしてお終い。もうひどすぎて相手してられない。
佐瑠子 まあ、そうでしょうけど。でも気を付けないと、この感じ、確実にストーカーになるわよ。LINEのほかにもコンタクトの手段持ってるの?
布和子 幸い、LINEだけ。
佐瑠子 これがもしあんたの住所まで知ってるとかだったら、引越しは必至だったわよ。あんたもこういう男には気を付けないと。
布和子 はあ~…私がつかむのってなんでこういう男ばっかりなのかしら。
佐瑠子 あんたねえ、自分でダメんずウォーカーを自覚し始めたらますますダメになるのよ。この男…ねばりさんって読むの? ねばり氏とはどこで出会ったの。
布和子 …ええっと。ネットよ。
佐瑠子 ぼやかして。どうせあんた出会い系サイトでもやってるんでしょう。
布和子 あの…そのソーシャルメディアよ…。知らない人と話せるってやつ? 最近、“ミートアップ”とか流行ってるでしょう。そういうやつよ。
佐瑠子 いい? そういうサイトで女を探すような男の心理も考えてみなさいよ。二言目には「会いたい」とか言い出すんだから。大体男なんて目的は一つなのよ。
布和子 そうね。確かにほとんどそういう男ばっかりだった。でも着男さんは違ったのよ。何度かチャットして仲良くなってから会ったのよ。私だってそうじゃないと実際には会わないわよ。
佐瑠子 ふーん。それで?
布和子 会ってみたら東大出身だっていうし、今は大手のIT企業で働いて年収も悪くなさそうだったし。しっかりした人に見えたのよ。
佐瑠子 あのねえ。東大卒って一言で言っても、いろいろなのよ。灘とか開成とかで揉まれてきた本当のエリートもいれば、競争の少ない田舎で一人だけずば抜けて頭良くって受かっちゃったような人までいろいろなの。
布和子 はあ。
佐瑠子 競争の無いところでずば抜けて頭がいい人って言うのはねえ、中学とか高校の時ちやほやされるから、結局「ただの勉強ができる子」にしかならなかったりするのよ。国立合格が目標になってしまうの。で、ましてや東大合格なんかしたら、ますます地元ではめでたがられる。でもね、戦いはそこからなの。東大行けば、当然だけど同じレベルの試験受かった人がうようよいるわけだから、勉強ができることだけでは自慢にならない。
布和子 なるほどねえ。
佐瑠子 問題は大学という場を使って何を成し遂げたいかなのよ。でも、勉強ができることだけでちやほやされてきた人は、もうここで電池切れになってしまうの。いままでちやほやされた分自尊心だけは大きいので、大学から先の将来へのやる気に溢れているに周りの人たちに圧倒されて負けてしまうの。東大行ったはいいけれど、そこで無気力になっちゃうような人って、割といるのよ。
布和子 ああー。着男さんそういうところあったかも。大学どこだったんですかーって気軽に聞いてもすごい後ろめたさそうに「一応東大…」とか言うし。
佐瑠子 だから、あんたも東大ブランドとか、そういう見た目や属性だけで人のこと見ちゃだめよ。会ったとき、こんな風になりそうだって何か感づかなかったの?
布和子 その時は何も気づかなかったわよ。気が付いていたら付き合ったりしないわ。
佐瑠子 しょうがないわねえ…。
(咳払い)
私のファームのアルムナイ(出身者)のイガさんっていう元採用担当マネジャーが、『採用基準』って本を書いているんだけどね。言ってしまうと、デートっていうのは企業の採用試験とかなり似たところがあるのよ。
布和子 はあ。
佐瑠子 相手がどういう考え方や価値観を持っていて、どういう行動に表れているのか、そういうことをお互いに吟味して、この先も長く付き合っていけるかどうかを見極める。デートも、企業の採用面接も、同じことをしていると言えるでしょ。
布和子 まあ…そうだけどデートは就活じゃないわよ…。もうちょっと楽しみたいけどなあ…。
佐瑠子 最近婚活とか恋活とかいうじゃない。あなただって無意識に相手が自分に見合うか、チェックしているでしょう。そういう意味じゃ、デートはお互いにとっての採用活動なのよ!
布和子 (さすが佐瑠子先輩、ロマンスのかけらもない…そして佐瑠子先輩の口から恋活とか婚活とかいう言葉がでると、リアルすぎてエグい)
佐瑠子 そしたら布和子ちゃん。これは私の知り合いで人材コンサルタントのM氏から聞いた話なんだけど、氷山モデルでコンピテンシーの話をしてあげましょう。よく、採用面接とか昇格面接を論じるときに使われるモデルなのよ。
布和子 (さすが佐瑠子先輩、唐突だ)
佐瑠子 仮に、同じIT企業に勤めていて、職種もどちらも営業、年齢も一緒というA君B君という二人の男性を考えてみましょう。
布和子 (講義始まった)

佐瑠子 A君、B君はさらにパフォーマンス(平たくいうと、成績)も同じくらい。ITに関する知識やスキルも同じ、プライベートでも基本的な家事は同じくらいできるとしましょう。さて、ここで氷山モデルが出てきます。「氷山の一角」って言葉は知ってるわね。
布和子 芸能人が覚醒剤の使用とかで捕まった時に良く週刊誌に出てくる言葉ね。
佐瑠子 まあそうだけど、あんた物騒な例を思いつくのねえ。まあ要するに、氷山っていうのは見えている部分はごく一部で、海面の下には氷山の見えていない部分が大きくあるってことね。人をこの氷山に例えていうと、人も表に見えてる部分はごく一部で、もっと大きな「見えないバックグラウンド」がその下にどっかりあるってこと。
布和子 なるほど。
佐瑠子 上の図はそれを示しているの。人がどんな知識やスキルを持っているかっていうのは、比較的見えやすいものよね。だから、それが海面より上に出てるの。だけどその見えてる部分は、海面より下の普段は見えない部分によって支えられてるものなのよ。
布和子 ほうほう。
佐瑠子 海面下の1段階目「集団での役割」というのは、その人がある集団の中で自分をどういう役割と認識しているかということよ。例えばITの営業であれば、多くの営業担当者は「自分は営業、技術は技術屋の仕事」だと思っている。ある意味、それは普通のことではあるの。でも、多くのハイパフォーマーは、自分は営業であることはちゃんと自覚しつつも、技術や顧客まで巻き込んで最終目的が達成されるように導く“リーダー”だという認識をしているのよ。●BMがよくこの言い方をするんだけど、違う楽器を弾く演奏者達をうまくまとめあげて素晴らしい楽曲を奏でる指揮者になぞらえて、“オーケストレートする”なんて言い方もするの。
布和子 役割分担だけで物を考えてるか、違う役割の人たちを巻き込んで全体を成功に導くっていう視点を持ってるかっていう違いね。
佐瑠子 そう。プライベートでもこういう事が言えるわ。つまり、男女の関係性で、男と女をどういう役割と認識しているかってこと。例えば、A君は「いい彼女を持てたら勝ち」的な、あくまで自分目線ね。それに対し、B君は女性に対して「パートナー」という視点を持っている。
布和子 こういうところは、確かに普段は見えてこない部分だけど、何かにつけ「垣間見える」ことはあるわね。
佐瑠子 そうね。こういう役割認識が、一番言動に直結してくる部分なのよね。で、この役割認識を一歩深堀りしていくと「自己の意義付け」――つまり自分を何者と認識してるかってことに突き当たる。仕事面では、自分は給料取りだと考えているのか、自分はビジネスを作り出していく人間だと考えているのかによって、ずいぶん差がでてくるわね。
布和子 ああー、分かるかも。Twitter見てると、仕事の愚痴ばっかりいってる男のフォロワーってすごくイラついてくるし、まじで「酒飲みながらやってくれよおっさん」と思うけど、「ビジネス作ってます」って人はカッコイイし輝いてるし。あとお金やっぱそれだけもらってそう。
佐瑠子 結局金の話になるのねぇ、あんたは。あなたも日頃からよっこら出版は給料が悪い悪い言ってるけどね。給料っていうのはあなたの働き一つ一つから出てきてるものなんだからね。あんた、それに見合う仕事はしてるって胸張って言えるの?
布和子 ……。
佐瑠子 (咳払い)話を戻しましょうか。男として、女のことを何と認識しているか、ってこともここで言えるでしょう。A君は女性のことを獲得品のように考えている。
布和子 こういう男は多いわね。口説き落とすのが自分の力量の証明だと思っているような男。
佐瑠子 まあ、それはマシな方よ。口説きもしない男もいるからねえ(恨み節)。
布和子 (ア、アラサーにこれ以上油を注ぐのは止めにしよう)
佐瑠子 問題は、口説くってことを勘違いしているような野郎ね。勘違いした残念な男っていうのは、一生懸命伝えればいつかは思いは通じて、相手を「獲得」できると思ってしまう。そこには、相手の考えとか好みとか、あるいは「生理的にダメ」みたいなものを理解できる素地が全然ない。
布和子 ああー。
佐瑠子 思うに、件の東大IT男はこういう男なんじゃないの。さっきのLINE見る限り、そういう臭いがプンプンするの。
布和子 まったくそうね。
佐瑠子 それにこの男、えらくナルシストね。「自己の意義付け(Self-image)」の部分が異様に膨らんでる感じがする。「君なしでは僕は無だ」とか(笑)。
布和子 どこの厨二病患者だよwww
佐瑠子 (ふと、たまにこの子2ちゃんっぽいものの言い方するのよねぇ…)
「愛してる」とか「君が必要だ」とか、そういう言葉にこじつけて、結局愛してるのは自分なのよ、こういう男は。自分大好き男。
布和子 最初はそうは見えなかったんだけどなぁ…。
佐瑠子 上の図だと、B君はとても健全な考えをしている。自分一人では人生の質を高めていくことには限界があることを知っていて言う「君が必要だ」と、あくまで自分本位の「君が必要だ」は、全く別物なのよ。
布和子 (先ほどのLINEの画面を見返しつつ)結局、人を見抜く目ってことかしらね…。どうやったら人を見抜く目を養えるのかしら。
佐瑠子 それは言うほど簡単なことじゃないわよ。だけど、それを少しでも体系化した知識にしようという努力で開発されたものの一つが、コンピテンシーモデルというものなの。思うに、この「自己の意義付け(Self-image)」まで見ることができれば、かなり人を見抜く目は鋭くなってくるんじゃないかしらね。
布和子 さっき、採用面接で使われるとか言ってたけど、どういう使われ方をしているの?
佐瑠子 M氏に言わせれば、コンピテンシーはいろいろな使われ方をしているらしいわ。まあ、ジンザイギョーカイにも流行り廃りがあるらしいので、下手な使われ方して「これは使えない」と断じられて流行らなくなった時期もあるらしいんだけどね。採用面接での使い方は、「海面上」の質問から初めて、徐々にそれを支えるその下の部分の質問に移行する。それで、その人がきちんとした役割認識や自己認識に基づいてパフォーマンスを挙げてきた人なのかどうかを見極めるっていう使い方が一般的みたいね。採用面接っていうのは、短時間でその人が一緒に働ける人間なのかどうかを見極める必要があるし、複数の選考者の間で選考基準がぶれててはいけないから、こういう方法論が必要になってくるのよ。
布和子 ふーん。
佐瑠子 一応氷山モデルを最後まで説明すると、「自己の意義付け」の下は「思考特性(Trait)」というの。このレベルは、もはや本人にとっては無意識的なんだけど、比較的その人に一貫している思考の特性を表しているの。例えば、楽観的/悲観的とか、先手を打つ/後手に回るとか、建設的に問題解決にあたるマインド/問題にあたるとストレスを抱えてしまうマインド…とか、そういうものね。
布和子 でも、これも結構周りから見えるものなんじゃないの?
佐瑠子 そうね。でも結構ここは繊細な部分なのよ。というのも、「●●さんにはどういう思考特性がある」っていう言葉には、かなりのところ恣意が入ってしまうでしょう。それに、あるときたまたまそういう行動をとったからに過ぎず、その人の一貫した特性とは言えないかもしれない。「●●さんの思考特性」を判断するってことは、どうしても恣意的になりがちだし、客観的な基準を用いて「思考特性」を測るっていうのも簡単なことじゃないのよ。
布和子 面接で使われるには、かなり繊細なエリアってことね。
佐瑠子 そうなの。そして、氷山の下のエリアになればなるほど「教育」も難しいと言われているの。氷山の上のエリア、つまりスキルとか知識とかは教え込むことができるものだけど、もはや「思考特性」のレベルまで行ってしまうと「教育する」っていうのはとても難しいものになってくるのよ。
布和子 …洗脳しかなくなってくる?
佐瑠子 物騒なものの言い方をすると、そういう言い方もできるかもね。M氏の会社の研修プログラムも、さすがにこの領域を「教え込む」ものは扱っていないんだって。で、氷山の一番下にあるのが「動機の持ち方(Motive)」と呼ばれてるものなの。これは「何に動機づけられてるか」ということなのよ。これももはや無意識の領域。ただ単純に自分が満足すればいいと考えている人か、他の人が喜ぶことに遣り甲斐を覚える人なのかで、思考特性も、自己の意義付けも、役割認識も、全部変わってくるのよ。
布和子 なんか難しいわね。確かに自分が何に動機づけられるかなんて、まじめに考えたことなんてないわ。
佐瑠子 コンピテンシーでも、これを扱うのはとても難しいの。口ではいくらでも「他の人に貢献したい」だの何だのは言えるでしょう? でもそれが本当にその人が心からそう考えていることなのか、面接用に用意してきた言葉に過ぎないのか、それを見極めるためにはきちんとした方法論と技量と熟達が必要なのよ。
布和子 さすが、これが氷山の一番下の部分だけあるのね。
佐瑠子 M氏に言わせると、この「動機の持ち方」はもはや「使命感」とも言いかえても良いものらしいわ。使命感や、倫理観に関わる領域と言ってもいいらしい。
布和子 もはや手が付けられない領域ね。
佐瑠子 これでコンピテンシーの話は終わり。男を見抜くために、なんかの参考くらいにはなるかしら?
布和子 うーん。例の東大メンヘラIT男は置いておくとして、結局いい男はどこにいるのかしら。年収800万円以上の優良企業勤務で、六大学卒以上で、イケメンな私のプリンスはどこにいるのかしら!?
佐瑠子 (私の教えることの呑み込みは早いのに、何にも学んでない…。そしてどんどん口が汚くなる)
続く…?

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