2009/04/22

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会社に入ってもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。サルトルが云々、ボーヴォワールが云々と騒ぎ続けた文科系男子が、会社なんぞと言う資本主義社会に向いているのかと、自他共に思っていたはずだが、それでもなんでも馴染んでやっている。そんな一ヶ月で、カイシャ人間になるとはこういうことなのかもしれない、と漠然と分かり始めた。カイシャ人間と言うと、カイシャに染まりきった、ロボットみたいな人間との印象を受ける言葉だけども、僕はあくまでニュートラルな意味合いで、「カイシャの人」になるとはどういうことか、考えてみたい。

カイシャ人間になるとは、その会社の環境に染まること。あるいはその会社の価値観を自分の価値観と重ね合わせることだ、と思う。

会社とは、まずもって人間の集合体だ。そして、人が集まっていれば必ずその集団の固有の雰囲気が生まれる。歴史のある会社であればあるほど、その雰囲気と言うのは時間をかけて受け継がれ、「環境」と言えるものになるのかもしれない。「環境」は会社の歴史の中で、社の多くの人に共有された価値観だとか意識だとか姿勢だとかで構築された建造物のようなものだと思う。

僕の会社も、すごく歴史があるというわけではないが、比較的長く日本でビジネスをやっているし、会社の中の人は明らかに会社の「環境」というものを感じている。

新入社員とは、その「環境」の中に、別の環境から放り込まれるヒヨっ子なのだ。

「環境」の力は絶大だ。ヒヨっ子は環境の前に「なすすべもない」。やる気のない環境にいると、やる気のない人間になってくるし、互いに助け合う環境にいると、人を助けるのが当たり前と思う人間になってくる。つまり、いい意味であれ悪い意味であれ、新入社員は会社の環境に多大な影響を受けるし、その環境に合わせるような人間になっていくのだ。ましてや、会社に入るとは、学生のときの自由な時間がなくなることを意味している。一日8時間以上、一週間5日という生活の大部分のリズムを仕事が決める以上、<生活>全体に仕事は影響を及ぼしてくるのだ。新入社員の最初の一ヶ月とは、その強大な「環境」に急速に「染められる」時期なのだと思う。

「周囲の環境に左右されない個人の強い意思」というものも、あるだろうけれども、人と言うのは基本的に環境に影響を受けやすいものだ。むしろ、そう考えておいた方が良い。個々人としては、そんなに間違ったことを考えていないし、「悪い」人もいないのに、「環境」に左右された挙句、個人が「悪い」行動を取り始めて、結果が最悪になったという例ならたくさんあるだろう。かの戦争も、そういうものだった。

会社の環境として、黒のことを白だという環境は、もう社会的に許されまい(そういう会社も実際にあるようだが……)。ただ、たとえ話になるけれども、下の絵を「老婆だ」と判断する会社と、「若い娘だ」と判断する会社は分かれるはずだ。



つまり、この例えで言いたいのは、どちらとも言えない、あるいは決まった答えのない問いに対して、他の答えを捨てて、ある一つの答えを提出するのが会社の固有の価値観である、ということだ。

うちの会社の固有の価値観と言ったら、「徹底して形式知を重んじる」ということだと僕は考えている。一応説明を加えると、形式知の反対語は暗黙知である。暗黙知とは、言葉にされない、経験の中で得られた知識やカンのようなもので、いわゆる「職人」の技はこれに入る。もっと砕けた例を出すと、「打つべきときに、打つべき球を打つ」 「そこをグゥーッと構えて腰をガッとする」とバッティング指導する長嶋茂雄は暗黙知的である。一方形式知とは、そうした暗黙知を言葉にし、体系立てて、誰にでも共有できる形にした知識のことである。運転免許教習のテキストには、「縦列駐車は右サイドミラーに角のポールが映るようになったらハンドルを切る……」などと書かれているが、こういうものが形式知である。

お分かりの通り、形式知と暗黙知は、どちらが優れているとかどちらが正しいかという種類のものではない。ただ、うちの会社は暗黙知を排して形式知を追及している。新入社員のときから、自分の得た気付きや発見を、形式知に変換して話すことが求められている。また、プレゼンテーションでも会議でも、発言でも、社内でなら誰もが共有している明示的なフレームワークに則ってすることが好まれている。

こういう環境にいると、そういう人間になってくるのだ。

ある価値観に染まっていくということは、別の価値観を徐々に捨てていくということと一体である。うちの会社だったら、暗黙知的な知識や考え方は好まれないから、僕も会社に馴染むにつれて、暗黙知的な考え方をしなくなっていくのかもしれない。ただし、このことはいつも頭にとどめておきたい。自分の信じる価値観だけになった瞬間に、人は排他主義になるのだから。

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