2008/12/01

Michel Polnareff - Qui a tué grand maman


Michel Polnareff Qui a tue grand-maman 投稿者 gerald_w-a

母がずっと昔に聴かせてくれたレコードで印象的だったのものの一つにミッシェル・ポルナレフのこの曲がある。ポルナレフは、日本ではもっぱら「トゥ、トゥ、プマシェリーマーシェーリ」で有名なサングラスのフランス人である。なんというか、ポルナレフみたいな「おフランス」なものを聴くということが、それこそある趣味を体現しているとでも言わんばかりのすごい和訳がくっ付いていて、それが印象的だったのだ。この曲の題は「Qui a tué grand maman」で、素直に訳すと「誰がおばあちゃんを殺したの」だが、なんとこれには「愛のコレクション」というとんでもない超訳がくっ付いている。どこから「愛」も「コレクション」もでてきたんだか。歌詞もかなりもともとのものから超えて訳されている。でも、それが真意をくんでいる、ということもあってなかなか僕の「訳」というものを考えるきっかけになった。「訳」というのは全く難しい。言語というものと付き合う根本にもかかわる。それだけに、訳をするということはある種の自分の世界観の表明でもあるわけだ。そんなことを考えた、すごい超訳。というわけで、①もともとの歌詞②すごい超訳(訳者不明、「PACK20シリーズ:ミッシェル:ポルナレフ」より)③僕がなるべくもともとの訳の直訳になるように訳したものという3段構えで紹介します。

Il y avait, du temps de grand-maman,
Des fleurs qui poussaient dans son jardin.
Le temps a passé. Seules restent les pensées
Et dans tes mains ne reste plus rien.

あの人の時には
庭に花が咲いていた
時が過ぎ、ただその想い出だけが残っている
そして君の手の中には、何もない

あれはおばあちゃんが生きていたころ
おばあちゃんの庭には花が咲いていた
時は過ぎ去って、ただ思い出だけが残っている
そして君の手の中にはもう何もない

Qui a tué grand maman ?
Est-ce le temps ou les hommes
Qui n'ont plus le temps de passer le temps ?
La la la...

誰があの人を消し去ったか
時間か、それとも
もはや、過ごす時間を持たない人間か
ララララ.........
ララララ.........

誰がおばあちゃんを殺したのか
時間がか、それとも過ごす時間をもはや持たない人か
ラララ..........


Il y avait, du temps de grand-maman,
Du silence à écouter,
Des branches sur des arbres, des feuilles sur des branches,
Des oiseaux sur les feuilles et qui chantaient.

あの人の時には
耳を傾けるべき沈黙があった
木々の枝が
枝の葉が
耳にさえずる小鳥たちが

あの頃、おばあちゃんがいた頃には
聴くべき静けさがあったものだ
木々の枝、枝の葉っぱ、
葉っぱの上でさえずる小鳥たちが


*Refain

Le bulldozer a tué grand-maman
Et changé ses fleurs en marteaux-piqueurs.
Les oiseaux, pour chanter, ne trouvent que des chantiers.
Est-ce pour tout cela que l'on te pleure ?

現代があの人を消し去った
花は物質に変えられた
さえずろうと思っていた小鳥たちはどこにもいない
このことで、私達は悲しんでいる

ブルドーザーがおばあちゃんを殺したんだ
花々はハンマーやドリルに変わってしまった
鳥たちは歌を歌える場所に工事現場しかみつけられない
私たちが君に泣くのは、全部このことのためなのか?
とくに最後の箇所の訳の変えっぷりはすごくて、「ブルドーザー」という単語は完璧に抹消、「現代」という言葉に変えられているのが当時の僕にとってはすごく衝撃的だった。また、「tué」は「殺す」とは決して訳されていないのはかなり意図的だと思われる。タイトルにもある「おばあちゃん」すらも訳されていない。これはすごい超訳だ。でもなんだか「現代があの人を消し去った」の方がかっこいいのも確かで、そこのところが訳っていうものの奥深さだなあと思う。

どこかで聞いた文句だけれども、「名訳」といわれているものはどこかでやっぱり「超えている」訳なんだそうだ。確か仏文の授業で先生の誰かが言っていたのだと思うけれど。冒頭にも少し書いたけれども、「和訳」という行為は言語と向き合うことだ。僕が語学の勉強を楽しいと思うとすれば、その要素が必ずあるからだ。英語を和訳していても、フランス語を訳していても、絶対に「ムリ」だと思う箇所が出てくる、というのはこういうことをやっている人ならばあると思う。このすばらしい言い回しは日本語ではムリだ。にもかかわらず、なんとかして日本語でやってのけよう、と格闘する過程が和訳というものなんだ、と思う。そういう意味で、和訳っていうのはとても深いし、苦しいけれども、楽しい。

ちょっと近未来っぽいことを言いさえすれば、超訳が出来る、ということ自体が人間のアイデンティティにもなってくるかもしれない。今はコンピュータによる翻訳というのは平易な文章ですら、まだまだの品質だけれども、技術が進歩すればかなり「読める」コンピュータ翻訳は現れるとおもう。簡単な文章ならばかなりの品質を持ってコンピュータ翻訳されうる日が絶対に来ると思う。これは、ただ和訳しただけ、という訳にはあまり価値がなくなってくることを意味する。そうしたとき、「文の心をくんで」訳せるのはやはり人間のみだ。意訳主義か、直訳主義か、その是非、みたいなことは言われるかもしれないけれども、これからは意訳じゃないと人間である意味がない、という時代が来るんじゃないかなと思う。

9 comment :

  1. 私もポルナレフが大好きでした。
    当時のレコードの付いていた「シェリーにくちづけ」、「君との愛がすべて」の和訳も超絶ですよ。

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  2. とても興味深く、すばらしいページであることに感銘を受けました。また、最近よくフランス語の歌詞の原文を読むのですが、日本で出回っているものはフランス語の誤りや聞き取りミスが多いのですが、(この歌の文もしかりです。)こちらのページでは正しいフランス語できちんと書かれていて大変良いと思います。ただ一点だけ訳者に敬意を払い申し上げます。ここで紹介されている訳は青山祐子さんという方のもので、PolnareffのいくつかのCDの解説に記載されています。

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  3. 匿名さま
    コメントありがとうございます。訳者は他のポルナレフも訳されているんですね。実はロックなんかも聞くので、なんというか、1970年代の超訳っぷりに時代性を感じるというか、すごいなあと思うのです。ユーライア・ヒープの「対自核(Look at your self)」とか。

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  4. ishizaki-yoshifumi2016年5月9日 22:37

    この曲のハーモニーからは、「愛のコレクション」というタイトルからは 想像もつかない内容が記されていると感じていました。果たして“Qui a tué grand maman”の直訳は〈誰がおばあちゃんを殺したのか〉で、さらに歌詞全体が気になりました。Michel Polnareff の音の重なりは暗示的で、現代社会への慟哭が感じられます。三林様の和訳に対する考え方も、とても参考になりました。ありがとうございます。このページは、お気に入りにいれさせていただきます。

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  5. ishizaki-yoshifumiさま
    お読みいただいて、ありがとうございます。これは私が大学で仏文科にいたころに書いた投稿でして、コメント頂いたのを機にもう一回読みなおしていると感慨深いです。コンピュータの翻訳もどんどん精度を上げてきていますし…。
    ポルナレフのこの曲は改めて聞くと、時代を感じますね。なんというか、この曲の時代にはまだ、懐かしんだり、無くなってしまったことを嘆き悲しむべき対象としての過去=”おばあちゃん”が在ったのだ、ということを感じます。ブルドーザーがおばあちゃんの庭を押しつぶした後の世界であるこの2016年、フレンチ・ポップの一曲としてこんな曲が現れることは考えられないし、ましてや日本で流行ることもないでしょう。ポップスで何が歌われているかというのって、興味深いなぁ…などと考えている次第です。

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  7. ミッシェルポルナレフは、もう日本では過去の人と思われていますが、2016年Olympia劇場でのLive2枚組のアルバムをリリースし、本国での人気はまだまだ根強いようです。なんと2017年の末にはPop rock en stockという23枚組のBoxCDも発売されました。愛のコレクションがこんなに含蓄のある歌詞だとは知りませんでした。ミッシェルポルナレフ再発見といったところです。

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  8. 木村様 コメントありがとうございます。僕の仏文学生時代に書いた拙い記事が、ポルナレフの再発見につながったようでしたら嬉しいです。最近めっきりフランス方面には疎いものでして・・・最近日本に輸入されてきているポップスとか、あるんですかね?

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  9. こんなウェブサイトを見つけました。
    https://f-hitcharts.weebly.com/
    僕が知っているのはエドシーランくらいですね、フランスじゃないですが。
    60~70年代のポップスは今、聴いても魅力的な音楽が多いと思います。
    ミッシェルポルナレフも再評価されるべき時かもしれません。

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